2019/02/15

VIS2018参加報告

もうずいぶん前の話ですが、昨年10月にVIS2018へ参加した報告になります。
より詳細は日本ソフトウェア科学会「コンピュータソフトウェア」に掲載されますので、ご覧になってください(たぶん5月号結局7月号に掲載)。ここでは抜粋を載せます。


VIS (すべて大文字)は可視化に関する最も重要な国際会議であり、次の3つのトップ会議を中心に構成されている(VISという名前はこれらの会議の頭文字からきている)。

  • VAST (Visual Analytics and Science and Techology):視覚的情報分析手法に関するトップ会議
  • InfoVis:情報可視化に関するトップ会議
  • SciVis:科学系可視化に関するトップ会議

VIS2018は、10月21日から26日にかけてベルリンのEstrel Hotel & Congress Centerにおいて開催された。VISの開催地は開始以来長年アメリカで固定されてきたが、今回は2014年のパリ以来のヨーロッパ開催となった。参加者数は過去最大の1252人と発表された。参加者数は年々ゆったりととしたペースで増加している。

VIS 参加者数の推移
国別の参加者数は、アメリカとドイツで過半数を占め、続いて、中国、イギリス、フランス、オーストリア、カナダなどが続いた。日本は韓国の25人より少なく、公開されたランキングでは圏外だった。自分が見た範囲でも日本の組織からの参加者数は10人強であった。

採択論文は、2段階の査読プロセスで審査され決定する。審査はVAST、InfoVis、SciVis各々で独立に行われる。採択された論文はIEEE Transactions on Visualization and Computer Graphics (TVCG)に掲載される。VASTに投稿される論文は幅広い分野にまたがるため、TVCGのスコープ外の論文も含まれる。これらを拾うためにTVCGに掲載せず、会議の予稿集のみに掲載される採択枠も存在する。
各会議の投稿数、採択数および採択率は以下の通りである。

会議ごとの投稿・採録状況(カッコ内は採録率)

次回VIS2019は2019年10月20日~25日の日程でカナダのバンクーバーで行われる。

招待講演


キーノート・トーク:Dieter Schmalstieg(グラーツ工科大学)は"When Visualization Met Augmented Reality"と題するキーノート・トークを行った。「これまでのARの研究はコンピュータビジョンの研究からもたらされたものが主であり、視覚的出力を最小限に抑えたものになっている。一方、可視化の分野は視覚情報に対する視覚・認知的な部分に重きを置いている。今の状況は、コンピュータグラフィクスの研究から可視化の研究が生み出されていった時代を思い起こさせる。」と述べ、可視化とARをうまく融合させるためにはどのようにするのか?という点に関して、VR、可視化、ARのパイプラインとその特徴を示し、ARにおける可視化に求められる要素について紐解いていった。
講演の最後に「ARと可視化の領域間には、多くの共通可能な領域があるが、まだ若干の距離があると思う。」と述べ、「ARと可視化の重なり合う領域を探すことでイノベーティブな研究に導けるはずである。もっと積極的にコミュニティ間で相互連携するべきだ。」と強調していた。

キャプストーン・トーク:Joachim M. Buhmann(チューリッヒ工科大学)は"Can I believe what I see? - Information theoretic algorithm validation"というキャプストーン・トークを行った。この中で、データサイエンスにおいて、アルゴリズムをデザインする際の問題点は何かを議論し、情報理論を用いてアルゴリズムの有効性を検証する枠組みを紹介した。

ベストペーパー


VAST Best Paper Award:[Dongyu Liu et al., TPFlow: Progressive Partition and Multidimensional Pattern Extraction for Large-Scale Spatio-Temporal Data Analysis] ここでは、TPFlow (Tensor Partition Flow) という多次元時空間データをトップダウンで段階的に分割し、詳細を探索するための可視化システムを紹介していた。
さらにその中で、多次元時空間データを複数に分割するベストの方法を自動的に探索し推薦するpiecewise rank-one tensor decompositionというアルゴリズムを提案した。
これらにより、従来手法では困難だった、予備知識なしに多次元時空間データから潜在的なパターンを探し出し詳細を探索することを可能にした。
時空間分析を行う際には大変有用な手法に思えた。

InfoVis Best Paper Award:[Dominik Moritz et al., Formalizing Visualization Design Knowledge as Constraints: Actionable and Extensible Models in Draco] データからそれに適した可視化を設計するには専門知識とガイドラインが必要とされるが、ガイドラインから実際の可視化ツールをデザインすることは簡単ではない。
この発表では、"可視化デザインに関する知識ベースを用いた制約"と"ユーザスタディによるトレーニングデータ(2つの可視化のどちらが好ましいかを比較した実験データ)"を用いて学習したモデルを生成し、そのモデルを用いて可視化のデザインを自動化をする手法を紹介していた。

SciVis Best Paper Award:[Andrey Krekhov and Jens Krüger, Deadeye: A Novel Preattentive Visualization Technique Based on Dichoptic Presentation] ユーザに特定の対象を注視させるために、色相など対象の視覚的特徴を変えることがよく行われるが、視覚的特徴を変更すると可視化の結果を変えてしまうことになる。
そこで、この発表では、これまで、ほぼ立体視のみに用いられてきた両眼視のシステムにより、それぞれの目に異なる刺激を提示する(例えば片方の目のみにハイライトするオブジェクトを描画する)、新しい注視技術Deadeyeを提案していた。

近年のVISの研究動向


下の図はVIS2018の全発表タイトル(TVGCやCG&Aからの招待論文も含む)から作ったワードクラウドである。比較のためにVIS2013のワードクラウドも載せた。

2018 年の発表論文タイトルによるワードクラウド

2013 年の発表論文タイトルによるワードクラウド

キーワードのサイズはTF-IDFの値を割り当てている。DFの値は1年分のタイトルのセットをドキュメントとみなし、1990年から2018年のデータを用いて求めている。TF、DF、およびTF-IDFの値が小さなキーワードは除いている。キーワードの色は、2018年と2013年で共通の色が用いられている。

ここ数年、特に2017年からの大きな特徴として、機械学習・深層学習が関連する論文・セッションが大幅に増えたことがあげられる。2018年のワードクラウドにも"deep"、"neural"などのキーワードが出現していることから、深層学習・ニューラルネットワークに関する研究が多く取り上げられていることがわかる。一方、2013年のワードクラウドにはこれらのキーワードは出現しておらず、ここ数年の流行であることが伺える。VIS2018では、ブラックボックス的な部分を人間に解釈可能なものにしようとする試みである"Explainable ML"という方向性に特に注目が集まった。

主にVR/AR技術を視覚的情報分析に活用する取り組みである"Immersive analytics"に関しても、セッション数として多くはないが2016年あたりから注目度が高まっている。
2018年のワードクラウドにも"immersive"というキーワードが見られる。

地理空間データ、時空間データなどに関する研究もここ数年一貫して発表されている。流行りのキーワードは変化しつつも、引き続き注目されている研究分野になっている。

データの不確実性を扱うための可視化技術のキーワードである"uncertain(ty)"が2013年も2018年も上位に来ており、まだ多くの課題が残されていると感じている。

また、2018年のワードクラウドから"crowdsourced"や"dashboard"などがVIS2018での特徴的なキーワードとして出現していることが分かる。これらのキーワードは2018年以前ではほとんど上位には出現しておらず、研究トピックとして注目され始めていることが伺える。

一方で、ソーシャルメディアに特化したセッションはここ2年間ほど組まれていない。2013年には見られる"social"というキーワードは2018年には見られない。2014年から2016年をピークに、以降キーワードとして用いられることも激減し、それだけでまとめてセッションを構成するほどではなくなっている。